ひよりの望むように ・・・’18.9.11のこと。
↓前回です。ひよりのガンは腸腺がんであることが分かり、ステロイド剤で症状を和らげることになりました。
「点滴をすればもう少し長く・・・」
今朝はひよりが口を”くちゃらくちゃら”させる音で目覚めた。以前までの”くちゃくちゃ”とは違い、舌を出して”くちゃらくちゃら”させるようになった。
よだれが口から垂れ下がっている。口元をティッシュで拭くと嘔吐してしまった。やはり触ると嘔吐を誘発させてしまうようだ。
ひよりは玄関の靴箱の下が気に入ったようで、冷たい床に横たわっている。最近ひんやりした所にいることが多くなった。このまま体温が下がってしまうのではと不安になる。
昨日、先生から言われた「点滴をすればもう少し長く生きられるかも・・・」という言葉がずっと気になっている・・・。長く生きられても、辛い時間が長くなるだけなのは嫌だ。少しでも長く一緒にいたいと思うのは きっと私のわがままだし、長く生きてほしいと思うのは自己満足でしかないんだろう。
ひよりが一番望んでいることはなんだろう?ひよりはどうしたい?
そればかりを考えるが、答えは出ない。
狂ったようにネットで色々調べる。最期の時までどうやって過ごすのが、ひよりにとって一番いいのか。
ネットによると、腎不全の猫さんは自宅で皮下輸液を行っているらしい。ひよりも自宅で輸液をしてあげれば楽に過ごせるんだろうか。それとも、ひよりにとっては辛い時間を長引かせるだけなのかな。
調べても調べてもやっぱり答えは出ない・・。
困った時の先生頼み
悩んでいても答えは出ないので、先生に電話で相談してみることに。(結局すぐに先生に相談してしまう。先生だってひよりが望んでいる事なんて分からないだろうに。先生いつもごめんなさい。)
電話に出たのは看護師さん。今日は主治医の院長先生はお休みだそうで、代理の女性の先生が電話を代わって下さった。
皮下輸液のことなどを聞いてみたが、『主治医ではないので』という理由で明確な回答はもらえなかった。
そりゃそうだよね・・・。
今日のところは、大変でもステロイドを飲ませることに専念してほしい、とのこと。
ステロイドは嫌な味はしないはずなので(女性の先生はそう言ったが私が舐めてみたところけっこう苦かった!)、すりつぶして砂糖水に混ぜてシリンジで飲ませると良いと教えてくれた。そうか、砂糖水か。昨日の投薬の失敗を引きずっていた私は少し勇気をもらった。
「にー」
昼過ぎころ、ひよりが起きてリビングに出てきた。キッチンに立っていた私のところへ来て小さく小さく「にー」と鳴いた。うっかりしたら聞き逃してしまう程小さな声だったけど、私を見あげて鳴いてくれるなんて・・・かわいくて嬉しくて涙ぐんでしまう。
「ひよちゃん、なあに?」何か伝えたいのかな。嬉しい気持ちが抑えられずにそっと抱っこ。すると すぐにえづき始め少しだけ嘔吐してしまった。また余計なことをしたね。こういうところだよ、ダメな私。もう自分が嫌になる...ごめんね、ひより。
ひよりは少し落ちついた様子でベランダを眺め始める。何か興味深いものを見つけたようで、外の景色を熱心に眺めている。
今のうちにステロイドを飲ませようと思い、不意打ちで口を開けてホイッとステロイドを放り込んでみた。すぐにスポイトで水を少量流し込む。ひよりは不意を付かれたようでゴクンと飲んでくれた。
初めての体験
これで嘔吐がなければいい。見守りながらひよりと一緒にベランダを眺めて風にあたる。ひよりはベランダに出たがっている様子。網戸のふちに手を掛けて開けるような仕草をする。今まではベランダ禁止にしていたけど、ひよりのしたいようにさせてあげたい。ひよりの望むように過ごしてもらうこと。それが私にとっても一番の望み。
「いいよ、ひより。ベランダに出てみよう。」
私はベランダへ続く窓をゆっくりと開けた。ひよりはしばらく遠い目をして風にあたりながら外を眺めていたが、意を決したようにそろそろとベランダに出て行った。ひよりが危なくないように目を離さずに付きそう。
そして、ベランダの水連鉢にいるメダカを覗きこむ。初めての体験。
泳ぐメダカを興味深そうに見ている。
しばらく眺めた後、そろそろと手を出して水面に浮かぶ水草をちょいちょいする。メダカ達は初めて覗く猫にびっくりした様子でさっさと下の方に避難済みだ。ひよりの遠慮がちな”ちょいちょい”がかわいい。
ベランダを眺めて風にあたるひより。痩せちゃったね...。
意外なところで就寝
ステロイドが効いているのか(ステロイドの副作用に「多飲」があるそう。)ひよりは少しだけ水を飲むようになった気がする。
洗面台に乗るので、蛇口をひねって水を出してあげると、洗面台にたまった水を飲んだ。このまま順調に水分を摂ってくれれば輸液も必要ないかも知れない。淡い期待。
洗面所のひんやりした床で横になるようなので、そっとしておこうとそばを離れると、間もなくゴトンガシャンと大きな音。
びっくりして洗面所に行ってみると、ひよりは洗濯機の中にいた。洗濯機に乗れるなんて…とビックリしたのと、洗濯機の中で私を見上げるひよりがかわいいくて、夫と2人で笑ってしまう。ステロイドが効いて体が楽になったのか、水分を摂れて元気が出たのか・・・。
危なくないように、洗濯機のコンセントが抜いてあることを確認し、蓋が閉じてしまわないよう固定して、今夜は洗濯機の中のひよりに「おやすみなさい」を言った。
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【後記】
ひよりには この時すでに背中の皮膚をつまむと なかなか元に戻らないなど、もう脱水症状の兆しがありました。
この日、私は女性の先生にもうひとつ質問をしています。『個人的な意見でかまわないので』と前置きをしたうえでの質問でした。
「ひよりが最期を迎えるにあたって、輸液をしないで脱水症状で亡くなるのと、輸液をしつつ がんの進行や衰弱などによって亡くなるのとどちらが苦しくないと思いますか?」
この問いに女性の先生は悩んだ様子でしたが、「脱水症状は、めまいや吐き気もあるだろうし、痙攣も起こる可能性がある。それは辛いんじゃないかな・・・。」と答えてくれました。
それを聞いて、私はなんとなく心が決まった気がしたのでした。
(’19.3.11)