長い長い1日③ ・・・’18.8.31のこと。
↓前回です。ひよりのお腹には、"取り除けない腫瘍"があることが分かりました。 chatorajirushi.hatenablog.com
「怖かったね。痛かったね。ごめんね。」
15:46、先生から「ひよりちゃんが目を覚ましました」と連絡。
夫と2人、急いで迎えに行く。
ひよりは既にキャリーに入れられて、診察室の隅にいた。
殺気立った顔で、ヒゲのあたりを膨らませ、毛は逆立って真っ黒の目。私たちの姿には気づかない様子で空中を睨んでいた。
こんなひよりは初めてで、今日一日ひよりがどんな思いでここにいたのか、今どんな思いでそこにいるのかが、私の胸のあたりにゴツンと伝わってきて痛かった。
怖かったね。痛かったね。ごめんね・・・。早く家に連れて帰って安心させたい。抱っこしてたくさん謝りたい。
診察室で先生が、症状について色々説明してくれている。夫が熱心に聞いている。
がんは、小腸と大腸の間に出来ていて、この部分は切り取ることが出来ないこと。小腸と大腸は太さが違うので、もし切って繋げてもすぐに破れてしまい、余計につらい思いをさせてしまうこと・・・。
お腹を縫った糸は抜糸しなくていい糸で、縫い目は内側に隠れるように縫ったからエリザベスカラーは付けていないこと。
手術後の痛みとの戦いは48時間が勝負だということ。だから、麻酔も完全には覚ましていないから、明日も 朦朧としているだろうということ。
今の腫瘍の状態はかなり大きくなっていて、かろうじてバリウムが通るくらいの隙間しかないとのこと。今後は飲み物しか口にすることは出来ないだろうこと、もう食べ物は食べられないこと・・・。
診察室でヘタり込む
そして先生が言った。
「このまま1週間生きられるかどうか。」
1週間???
・・・・・???
・・・・・・・・???!!!
目の前が急に砂嵐のようになって、頭やほっぺがキーンと冷たくなっていくような感覚になり、足を踏ん張ってはみたものの、結局ザーッという音とともに視界が白黒に変わって 私は床にヘタヘタと座り込んだ。
夫が手を差し伸べてきたが それを掴むこともできず、座ったまま ”キーン” と ”ザーッ” が治まるのを待った。嗚咽も止めることが出来ず、もう先生の話は”キーン”という音越しに聞くしかなかった。
夫はがん治療の話を聞いているようだった。
先生は、リンパ腫ならよく効く抗がん剤があると言っている。「私の見たてでは”腺がん”だと思うのですが、確定診断には病理検査が必要です。病理検査に出してみて、もしリンパ腫だったら治療しますか?」と先生。
夫が「検討したいので、念のため病理検査をお願いします。」と答えている。
空中で交わされる会話をぼんやりと聞きながら、私はキャリーの中で殺気立ったひよりの顔を見つめ「もう ひよりをキャリーには入れない。病院には絶対に連れて来ない。」と誓っていた。
「ひよりの大好きなおうちだよ」
家に連れて帰ると、玄関に入ってもひよりは我が家だとは気付いていない様子で、相変わらず殺気立った表情で固まっていた。
「ひよちゃん、帰ってきたよ。大好きなおうちだよ。安心して。ゆっくりしようね。」声を掛けながらリビングに入る。
リビングに入ってキャリーを下すと、突然我に返ったひよりはパニック状態になり、キャリーの中で暴れて 扉を押し破るようにキャリーから飛び出した。そのまま もつれる足でダッシュして 押し入れの中に入ってしまった。
麻酔がまだ効いているのに、傷口は縫ったばかりなのに、とにかくダッシュで押し入れに向かっていった。
押し入れの上の段、タンスと壁の15センチほどの隙間が、ひよりが一番落ち着ける場所。上の段にのぼるのに少してこずり、足を滑らせながらも必死だった。よほど怖い思いをしたんだね。本当にごめん、ごめんね。こんな事になってしまって本当にごめんね。
ぼーっとしてても ひよりはひより
押し入れに入ったまま、ひよりは夜11:00頃になっても出てこない。
押入れを開けて様子を見ると、眠ってはいないようで目を開けてぼーっとしている。私のことが分かっているのかどうか、私を見ることもしない。なんだか ひよりじゃないみたい・・・。ひより、怒ってるのかな、もう嫌われちゃったのかな。あんなに怖い思いをさせて、私のこと もう信用できないよね。
今夜はこのままそっとしておこうと夫と話し、私たちも眠ることにした。
布団の中で眠ることもできず悶々と過ごすこと数時間、押し入れからひよりが下りる音した。
急いで布団を出て行ってみると、ひよりがぼーっとした表情で座っていた。
朦朧としてはいるけど、さっきまでの硬い表情は無くなっていて ”いつものひより” がそこにいた。ああ、ひよりだ。胸がいっぱいになる。
「ひよちゃん!」声をかけると、よろよろと立ち上がり私の足にねりねりと体を預けてくれた。ああ良かった。いつものひよりだ。うれしくて安心して、ひよりの体温が愛しくて泣けてくる。
ひよりは ぼーっとして目もうつろ。時々4つ足で立ったまま ぼーっと空中を見る。のろのろと動きだしてカーペットにごろんと倒れこみ、体をなでる私の手にもねりねりとしてくれる。そして急にねりねりを止めて、焦点の合わない目で空中を見る・・・。
まだ麻酔が効いているんだよね。痛みは無さそうでよかった。術後48時間は痛みがあるだろうと先生は言っていた。だからきちんと麻酔は覚まさせていないよ、と。
どうかこのまま痛みを乗り越えられますように。どうか明日の朝も "いつものひより" に会えますように・・・。
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【後記】
この日、ひよりのことが心配でたまらなかった私は、朝まで ひよりに付いていたかったのですが、その思いを振り払って一人で眠らせることにしました。なぜなら、ひよりは眠っていても ふと私に気づくと起き上がり、私の体に体重を預けて ねりねりを始めてしまうからです。私としては嬉しくてたまらなかったのですが、朦朧としたままそんな事を何度も繰り返してしまうのは、ひよりにとって良い事ではないはず。今夜は私の思いよりも、ひよりがゆっくり眠れることが大事、そう思いました。
ただ、寝室に引き上げてからも、これが最後のお別れになったらどうしよう、この判断を後悔したらどうしよう、と私は朝までろくに眠れずに過ごすことになります。
(’18.12.17)
<通院の覚え書き>
8/31 体重 3.2kg
再診 ¥500-
ソルラクト/Drip ¥4,000-
アモスタック/s.c(~10kg) ¥0-
メタカム/s.c(~10kg) ¥0-
レペタン/i.v ¥0-
全身麻酔 ¥10,000-
試験的開腹術 ¥25,000-
病理組織検査 ¥12,000-
エックス線検査(産科領域を除く) ¥6,000-
消費税 ¥4,600-
合計 ¥62,100-